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機械的性質
Ⅰ. 引張特性

一般に引張特性は応力-歪み曲線(S-S曲線)によって表されます。図1に非強化ナイロンの絶乾時と大気平衡吸水時の代表的な引張応力-歪み曲線を示します。この図から吸湿すると応力-歪み曲線がなめらかな曲線となることが判ります。また、降伏点(図1のB点)を越すといわゆるネッキング現象を起こし、伸びが急激に増加します。実際の設計に際して降伏応力を安全率で除した値を安全な許容応力として使用しますが、ナイロンでは安全率を3~8とするケースが多いようです。ガラス繊維に代表される強化充填材よって強化されたナイロンではネッキング現象が起こらず、いわゆる脆性破壊を生じます。なお、引張強さは、降伏を示す材料では降伏時の応力、脆性破壊する材料では破断時の応力で表します。
変形しやすさの目安は弾性率で表されますが、これは図1の応力-歪み曲線の比例限度(A点までの直線部分)の勾配に相当します。いま大気中平衡吸水率(2.5%)のナイロン66の引張弾性率を求めてみますと、比例限度である0.5%の伸びに対応する応力が7.5MPaなので、
引張弾性率=応力/歪み=7.5MPa/0.005=1500MPa=1.5GPa
となります。同様にして、大気平衡吸水時のナイロン6、ナイロン610の引張弾性率を求めますと、それぞれ、1.1GPa、1.2GPaとなります。
ナイロンの引張特性は温度依存性が大きく、温度の上昇に伴い引張強さ、引張弾性率ともに低下します。また、吸水によっても低下し、温度依存性の曲線が低温側にシフトしたような挙動を示します。代表的なグレードについて、引張強さの温度依存性を図2~5に、引張弾性率の温度依存性を図6~7に示します。
図2. CM1017(非強化ナイロン6)
の引張強さの温度依存性図3. CM1011G-30(GF30%強化ナイロン6)
の引張強さの温度依存性図4. CM3001-N(非強化ナイロン66)の
引張強さの温度依存性図5. CM3001G-30(GF30%強化ナイロン66)
の引張強さの温度依存性図6. CM1017(非強化ナイロン6)の
引張弾性率の温度依存性図7. CM3001-N(非強化ナイロン66)の
引張弾性率の温度依存性
Ⅱ. 曲げ特性

曲げ特性は図8に示す3点曲げ試験で評価するのが一般的であり、指標としては曲げ強さ、曲げ破断歪み、曲げ弾性率などがあります。
- b:試験片の幅
- h:試験片の厚さ
- L:支点間距離
- W:荷重
- δ:たわみ
としたとき、応力δと歪みεは
σ=(3L/2bh2)・W・・・(a)
ε=(6h/L2)・δ・・・(b)
破断時の荷重を(a)式に代入すると曲げ強さが決まり、破断時のたわみを(b)式に代入すると曲げ破断歪みが求められます。曲げ弾性率は、荷重-たわみ曲線の直線部分の一点の荷重、たわみを代入して、(c)式から求められます。
曲げ弾性率=σ/ε=(L3/4bh3)・(W/δ)・・・(c)
曲げ特性も引張特性と同様の温度、吸水率依存性を示します。代表的なグレードについて、曲げ強さの温度依存性を図9~12に、引張弾性率の温度依存性を図13~16に示します。
図9. CM1017(非強化ナイロン6)
の曲げ強さの温度依存性図10. CM1011G-30(GF30%強化ナイロン6)
の曲げ強さの温度依存性図11. CM3001-N(非強化ナイロン66)
の曲げ強さの温度依存性図12. CM3001G-30(GF30%強化ナイロン66)
の曲げ強さの温度依存性図13. CM1017(非強化ナイロン6)
の曲げ弾性率の温度依存性図14. CM1011G-30(GF30%強化ナイロン6)
の曲げ弾性率の温度依存性図15. CM3001-N(非強化ナイロン66)
の曲げ弾性率の温度依存性図16. CM3001G-30(GF30%強化ナイロン66)
の曲げ弾性率の温度依存性
Ⅲ. 圧縮特性
非強化ナイロン6の圧縮応力の温度依存性を図17に、吸水率依存性を図18に示します。また、各種ナイロンの圧縮強さを表1に示します。
図17. CM1017(ナイロン6)の圧縮応力
の温度依存性(絶乾、歪み速度10%/分)図18. CM1017(ナイロン6)の圧縮応力
の吸水率依存性(25°C、歪み速度10%/分)
項目 | 単位 | ナイロン6 CM1017 |
ナイロン610 CM2001 |
ナイロン66 CM3001-N |
---|---|---|---|---|
降伏強さ(絶乾時) 降伏歪み(絶乾時) |
MPa % |
85 5 |
90 5 |
65 5.5 |
1%圧縮変形時の応力 絶乾時 大気平衡吸水時 飽和吸水時 |
MPa MPa MPa |
26 5.5(3.8) 3.4(11.5) |
20 7.2(2.2) 5.2(3.8) |
28 8.0(3.7) 4.9(9.9) |
注 カッコ内数値は吸水率(%)
Ⅳ. クリープ特性
一定荷重の元で時間とともに歪みが増加する現象をクリープといい、ナイロンの機械的性質の中でもっとも重要な性質のひとつです。図19に室温での非強化ナイロン6、66の引張、圧縮クリープを示します。図20にナイロン6の引張応力10MPaでのクリープ変形の温度依存性をまた図21にナイロン6とナイロン66の引張応力20MPaでのクリープ変形の温度依存性を示します。
図19. CM1017、CM3001-Nのクリープ変形
図20. CM1017(ナイロン6)の温度によるクリープ変形の変化(絶乾)
図21. CM1017(ナイロン6)、CM3001-N(ナイロン66)の引張クリープ変形(荷重、20MPa、絶乾)

実際の設計に際して変形量を推定するのに便利に用いられるのは見かけの弾性率、すなわち一定時間経過時の弾性率です。図22に室温でのCM1017(ナイロン6)とCM3001-N(ナイロン66)の見かけの弾性を示します。これを用いてCM3001-N(ナイロン66)の応力20MPaにおける1年後の変形量を求めてみます。
図22から1年後(8,760時間後)の見かけの弾性率は0.66GPaですから1年後の変形量は
変形量=20MPa/0.66GPa≒0.03=3%
となります。但し、見かけの弾性率が適応できる応力範囲は、室温の場合、CM1017(ナイロン6)では20MPa以下、CM3001-N(ナイロン66)では22MPa以下であります。
Ⅴ. 衝撃強さ
ナイロンの衝撃強さは樹脂材料の中では大きい方に属します。衝撃強度の吸水率依存性を図23に、温度依存性を図24に示します。ナイロン6とナイロン66を比較すると、絶乾時の室温では差がなく、吸水率依存性にも差はありませんが、ナイロン6の方が平衡吸水率が大きいので実使用下ではナイロン6の方が高い衝撃強さが期待できます。一方、図25に衝撃強さの結晶化温度依存性を示します。結晶化度が高いほど衝撃強度が低いことがわかります。
図23. 衝撃強さの吸水率依存性
図24. 衝撃強さの温度依存性
図25. 衝撃強さの結晶化度依存性
Ⅵ. 表面硬さ
表面硬さの吸水率依存性を図26に、温度依存性を図27に示します。吸水率が高いほど、また温度が高いほど表面硬さが低下することがわかります。
図26. 表面硬さの吸水率依存性
図27. 表面硬さの温度依存性