物理的性質

Ⅰ. 吸水速度

 ナイロンは分子内に親水基(アミド基)を有するため吸水性があり、また吸水により寸法変化が起こります。
 通常の大気状態すなわち23°C/60%PHにおける平衡吸水率はナイロン6で3.5%、ナイロン66で2.5%、ナイロン610で1.5%です。(表3.6の吸水率は、水中浸漬時の値であり、大気平衡吸水率とは異なります。)図34に各種ナイロンの吸水率の経時変化を示します。
 同一種ナイロンであっても吸水速度は成形品の形状によって変化します。その様子を図35に示しました。
 図36、図37はナイロン6の100°Cにおける水中および大気中での吸水曲線です。これからわかりますように、吸水率y(%)と時間tとの間には
y=m・tn
の関係が成立します。m,nはナイロンの種類、成形品の形状、成形条件(結晶化度)によって決まる定数です。
(*理論的にはn=1/2です)。
表3に60mmφ×3mm円板、12.7×6.35×127mm角棒についてm、nの値を示します。

  • 図34. 吸水率の経時変化 60mmφ×3mm円板、20°C、RH60% 図34. 吸水率の経時変化
    60mmφ×3mm円板、20°C、RH60%
  • 図35. 単位表面積当りの吸水率の変化 図35. 単位表面積当りの吸水率の変化
  • 図36. CM1017(ナイロン6)の吸水曲線(100°C水中) 図36. CM1017(ナイロン6)の
    吸水曲線(100°C水中)
  • 図37. CM1017の吸水曲線 図37. CM1017の吸水曲線
表3. 吸水率の定数m、nの値の一例
ナイロンのタイプ 円板(60mmφ×3mm ) 角棒(12.7×6.35×127mm)
20°C水 20°C, RH60% 20°C水 100°C水
m n m n m n m n
CM1017(ナイロン6) 2.8 0.45 0.40 0.45 0.9 0.46 1.3 0.45
CM3001-N(ナイロン66) 1.5 0.44 0.32 0.39 0.6 0.43 1.0 0.45
CM2001(ナイロン610) 0.6 0.40 0.24 0.38 0.2 0.46 0.5 0.44

次に各種形状成形品の吸水率の経時変化を拡散方程式を用いて求めます。
 簡単のために半無限物体で吸水方向を1次元とし、物体の表面から距離xの場所における時刻tの水の濃度をC(x,t)とすれば濃度Cの時間変化は、
(∂C/∂t)=D(∂²/∂x²)・・・(a)
で表すことができます。ただしDは拡散定数を表します。これから任意の時間における平均濃度C(t)は
C(t)=S2Cs/ ・・・(b)
で表されます。ただしCs;それぞれの条件における平衡吸水率、D;拡散的数(m2/s)、V;成形品の体積(m3)、S;成形品の表面積(m2)を表します。
 実際の測定結果と比較するとC/CsS/V√tの関係はほぼC/Cs=0.8までは直線関係にあることがわかっています。そこでいくつかのナイロン成形品について直線関係が成り立つ範囲で拡散定数Dを求めると表4のようになります。

表4. CM1017(ナイロン6)の拡散定数の計算例
成形品の形態 条件 拡散定数D
丸棒機械加工品 100°C水中 3.48×10-11m2/s
射出成形品 20°C水中 7.84×10-13m2/s
20°C/60%RH 6.31×10-14m2/s

(b)式により射出成形品を20°Cの水中に浸漬した時にある吸水率に到達するのに要する時間を求めますと、
t=0.784(C/Cs)²(1/ω²D)・・・(c)
t;経過時間[s],C;時刻tにおける吸水率[%]
Cs;それぞれの環境条件における平衡吸水率[%]
ω=S/V;形状係数[1/m]
が得られます。
 ただし、この式は平衡吸水率の80%までの吸水率に到達する時間の算出には適用できますが、それ以上の吸水率に到達する時間の算出には使用できないことにご注意下さい。(平衡吸水状態に達するまでの時間は平衡吸水率の80%まで吸水するに要する時間の約2.5倍です。)
 これを用いてCM1017(60mmφ×3mm円板、ω=733)が20°C水中において平衡吸水率の80%の吸水率に到達する時間を求めますと表4からD=7.84×10-13m2/sですから(c)式により、
t1=0.784・(0.8)²(1/733²・7.84・10)=1.19×10(S)≒330(時間)
となります。
 また同じく20°C、RH60%空気中における平衡吸水率の80%の吸水率に到達する時間は
t1=0.784・(0.8)²(1/733²・6.31・10)=1.48×10(S)≒4,110(時間)
となります。
 したがって平衡吸水率に到達するまでの時間はそれぞれ330×2.5=825時間、および4,110×2.5=10,275時間となります。

Ⅱ. 吸水における寸法変化

図38に成形後―昼夜デシケータ中に置いたCM1017(ナイロン6)の角棒の各環境における寸法の経時変化を示します。この図からわかりますように常温、絶乾状態(20°C、RH0%)では成形時の残留応力の緩和にともなう寸法減少を示しています。したがって一定温度における実際の寸法変化は吸水による寸法増加と成形時の残留応力緩和による寸法減少が相重なっておこっています。

図39に熱処理による収縮および熱処理後の寸法の経時変化を示しますが、熱処理後の寸法変化はほとんど見られません。なお、吸水による寸法増加の割合は吸水率1%につき0.2~0.3%程度です。

  • 図38. CM1017(ナイロン6)の環境による寸法変化の違い(角棒12.7×6.35×127mm) 図38. CM1017(ナイロン6)の環境による
    寸法変化の違い(角棒12.7×6.35×127mm)
  • 図39. 成形収縮、熱処理収縮および熱処理後の寸法の経時変化 図39. 成形収縮、熱処理収縮および
    熱処理後の寸法の経時変化

Ⅲ. 熱的性質

図40. 各種ナイロンの線膨張

図40. 各種ナイロンの線膨張

ナイロンの融点は他の熱可塑性汎用樹脂に比較するとかなり高く、ナイロン66で255°C、ナイロン6で225°C、ナイロン610で220°Cです。
しかし、荷重下における連続使用の上限温度としては、通常ナイロン66で100°C、ナイロン6、ナイロン610では70°Cとして下さい。  金属材料と比較してナイロンの熱的性質の特長としては熱伝導率が小さいことおよび線膨張係数が大きいことがあげられます。図40に各種タイプのナイロンの熱処理後の線膨張を示します。同一種のナイロンであっても熱履歴が異なると線膨張挙動はかなり変りますが、これは結晶化度、および成形時の残留応力の影響によるものです。

Ⅳ. 耐老化性

ナイロンは高分子物質ですから、熱、紫外線、その他により劣化の現象が見られます。表5のCM1017(ナイロン6)、CM3001-N(ナイロン66)の屋外暴露試験結果について示します。暴露による影響は機械的性質のうち破断伸び、衝撃強さにおいて顕著です。CM1017の劣化は1年暴露で絶乾試料では約10%ですが大気平衡吸水試験試料では低下はほとんどありません。またナイロン6、66とも暴露による劣化は1年以後あまり進行しません。

表5. ナイロン6、ナイロン66の屋外暴露試験結果
項目 単位 タイプ CM1017
(ナイロン6)
CM3001-N
(ナイロン66)
暴露年月 0年 1年 0年 1年 1年9ヶ月
引張強さ MPa 絶乾
大気平衡吸水
85
40
75
40
80
50
67
48
56
46
引張破断伸び % 絶乾
大気平衡吸水
150
200<
6
40
100
200<
12
35
6
30
曲げ強さ MPa 絶乾
大気平衡吸水
120
45
82
41
115
65
110
62
80
-
曲げ弾性率 GPa 絶乾
大気平衡吸水
3.0
1.0
2.8
1.0
2.8
1.4
2.6
1.4
2.4
1.4
アイゾット衝撃強さ J/m 絶乾
大気平衡吸水
50
400
40~10
-
50
300
40~10
-
50~30
-
ロックウェル硬さ R-スケール 絶乾
大気平衡吸水
119
90
106
92
119
100
110
104
114
103