電磁波しゃへい性

炭素繊維強化熱可塑性樹脂は導電性を有しており、その成形品には電磁波しゃへい性が期待できます。
炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電磁波しゃへい性は、図1に示したように炭素繊維の含有率に比例し、樹脂種、密度、吸水などによって強弱があります。

図1. 炭素繊維含有率と電波しゃへい性の相関

図1. 炭素繊維含有率と電波しゃへい性の相関

電磁波しゃへい性(dB)は下式によって電磁波しゃへい率に換算することができます。
図2に示したように、炭素繊維の含有率が10wt%以上において、90%以上の電磁波しゃへいが期待できます。

電波しゃへい性(dB)=-20 log (1-しゃへい率(%))

図2. 炭素繊維の含有率と電波しゃへい率の相関

図2. 炭素繊維の含有率と電波しゃへい率の相関

図3に示したように成形品厚みが厚いほど炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電磁波しゃへい性は、高くなります。必要なしゃへい率を得るために、設計の許す範囲で必要な部分の成形品厚みを確保することが望ましいです。

図3. 炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形品厚みと電波しゃへい性の相関

図3. 炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形品厚みと電波しゃへい性の相関

炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電磁波しゃへい性は、図4に示したように電磁波の周波数に依存しており、高周波域は有効にしゃへいすることができるが、低周波域で十分なしゃへい性を得るためには、導電性の高いグレードを選択する必要があります(データシート参照下さい)。

図4. 炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電波しゃへい性の周波数依存性

図4. 炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電波しゃへい性の周波数依存性

炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電磁波しゃへい性は、図5に示したように成形品中の炭素繊維の繊維長に影響を受けます。炭素繊維には成形品中での繊維長が1mm以上とすることが可能な長繊維があり、電磁波しゃへい性には優位です。繊維長の影響は周波数域が変わっても同様に見られます。

図5. 炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形品中繊維長の電波遮蔽性への影響

図5. 炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形品中繊維長の電波遮蔽性への影響

炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電界、磁界のそれぞれのしゃへい性は、図6に示したように電界へのしゃへい効果が磁界へのしゃへい効果に比べて高くなります。

図6. 炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電界・磁界しゃへい性

図6. 炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電界・磁界しゃへい性

炭素繊維強化熱可塑性樹脂は、電磁波しゃへい性を有しているため、Al、Mgなどの金属筐体材料の代替として用いることが可能です。電磁波しゃへい性には樹脂種、炭素繊維含有率、成形品厚み、成形品中の炭素繊維長などが影響するため、ご要望に合わせて、最適なグレードの選定、成形方法や金型設計を含めた技術サービスを提供致します。

炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電磁波しゃへい性の評価は、図7に示したように発信プローブからの電磁波強度E1に対する、受信電磁波強度E2を測定しています。測定方法としては、アドバンテスト法、KEC法、DFFC法などを電界、磁界、周波数域によって選択しています。

図7. 電磁波しゃへい性の測定イメージ

図7. 電磁波しゃへい性の測定イメージ

炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電磁波しゃへい性は炭素繊維の導電性により得られる効果であり、素材としては電磁波しゃへい用途に設計したものではありません。炭素繊維によって電磁波の発生源と、電磁波から防護したいものとを空間的に隔離することで得られる付随効果です。

炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電磁波しゃへいの原理は、①電磁波の反射損失と②電磁波の吸収損失の合成によるエネルギー減衰であり、ほとんどは③の反射損失に依るものです。一部の電磁波は炭素繊維強化熱可塑性樹脂を通過する過程で、電磁誘導による渦電流でジュール発熱することで損失します。この熱は極わずかであり、炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形品の放熱性能により、成形品温度の上昇として観測されることはありません。

炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電磁波しゃへい性は、炭素繊維の導電性に依存しており、成形品を得る際の充填率が不足して密度が低い状態であったり、スクリュー回転数、スクリュー圧縮比、樹脂温度、スプルーテーパー、ランナー長・径、ゲート形状・径、キャビティー内の厚み変動などにより成形品中の炭素繊維強化熱可塑性樹脂が折損しすぎたり、成形品厚みが非常に薄い部分が存在し炭素繊維強化熱可塑性樹脂が流入できずに濃度低下した場合には、充分な特性が得られない場合があります。

炭素繊維強化熱可塑性樹脂の電磁波しゃへい性は、一般的な光、熱、水などの環境作用では、炭素繊維周りの環境は変化しないため、電磁波しゃへい性には大きな影響はありません。一方、成形品の使用環境によっては電磁波しゃへい性能が経時的に変化する可能性があります。例えば経時によって、樹脂の劣化が進んで、形状の崩壊、密度低下や炭素繊維の離脱に至った場合には、導電性能が維持できなくなり電磁波しゃへい性が低下する可能性があります。

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