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引張特性
Ⅰ. 引張り強さについて
引張り特性は、最も基本的な静的強度であり、試験片の断面に対して垂直方向に一定速度で引張ったときの最大荷重から式5.1に従い求めることができます。また、引張り強さは、最大荷重を初期の断面積で除した公称応力と破断時の断面積で除した真応力に分類することができますが、本技術資料では公称応力を引張り強さとして扱っています。
Table.5.1 トレリナ™の引張り特性 (23℃)
項目 | 単位 | ガラス繊維強化 | ガラス+フィラー強化 | エラストマー改質 | 非強化 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A504X90 | A604 | A310MX04 | A610MX03 | A673M | A575W20 | A495MA2 | A900 | A670T05 | ||
引張り強さ | MPa | 190 | 195 | 130 | 140 | 150 | 150 | 150 | 80 | 70 |
引張り伸び | % | 1.6 | 2.0 | 0.8 | 1.0 | 2.1 | 1.5 | 1.7 | 13.0 | 20.0 |
- ※試験法:ISO 527-1,-2に準拠
Ⅱ. 応力-ひずみ曲線(S-S曲線)
Fig.5.1 応力-ひずみ曲線(23℃)
Fig.5.2 A310MX04 / 比例限度
引張り特性に代表される機械的性質は応力-ひずみ曲線(以下S-S曲線と略します)によって表されます。(Fig.5.1) 一般的に材料の引張り強さはS-S曲線の最大値で表しますが、主に降伏点を示す非強化系PPS(A900等)は降伏強さ、降伏点に達する前に脆性破壊を示す強化系PPS(A504X90、A310MX04等)は破断強さで表します。また、S-S曲線のひずみに比例して直線的に引張り強さが大きくなる領域(比例限度)は、外力の作用を取り除くと変形が元の状態に戻る弾性変形域を示しています。一般的にこの比例限度の傾きを表したものを弾性率と呼びます。弾性率はS-S曲線の比例限度に補助線を引いて、フックの法則(式5.2)に従い求めることができます。得られた弾性率は、値が高いほど変形しにくい(硬い)ことを示しています。特に引張り弾性率は、ヤング率や縦弾性係数と呼ばれることがあり、A310MX04やA610MX03などのガラス繊維と無機フィラーを高充填化したハイフィラーPPSは特に高いヤング率を有しています。(Fig.5.2)
一方、S-S曲線の降伏点を越えた領域は、ひずみが大きくなっても引張り強さの変化は小さく、外力を取り除いても変形が元の状態に戻らない塑性変形域を示しています。非強化PPS(A900、A670T05等)では、降伏点を越えると材料が均一に伸びずに局所的に伸びるネッキング現象が起こることがあります。
Ⅲ. リニア型PPSと架橋型PPSの特長
トレリナ™には、強化材の種類や含有率は同じでも架橋型ポリマータイプ(A504X90等)とリニア型ポリマータイプ(A604等)の2つのタイプがあります。このポリマー構造の違いによる特長として、A504X90やA310MX04に代表される架橋型ポリマータイプは弾性率が高いのに対して、A604やA610MX03に代表されるリニア型ポリマータイプは引張り強さや伸び(靭性)に優れています。(Fig.5.3~5.4)
Fig.5.3 GF強化PPS / S-S曲線(23℃)
Fig.5.4 ハイフィラーPPS / S-S曲線(23℃)
Ⅳ. エラストマーによる改質効果
Fig.5.5 エラストマー改質PPS / S-S曲線(-30℃)
トレリナ™には、熱可塑性エラストマー(以下エラストマーと略します)で改質したA575W20、A673M、A495MA2、A670T05などをラインアップしています。エラストマーによる改質効果は成形性(ブロー成形)、機械特性、2次加工性の改善など様々ですが、特に機械特性では低温環境において高い靭性(伸び、耐衝撃性)や柔軟性を維持するために有効です。(Fig.5.5)この低温特性は、金属インサート部品のヒートサイクル性(低温割れ)やガスケット部品のシール性向上などに寄与します。一方で、エラストマーはPPSよりも熱安定性に劣ることから耐熱性や金型汚染性(モールドデポジット)への配慮が必要です。
Ⅴ. 温度依存性
トレリナ™の代表的な9グレードの引張り強さの温度依存性をFig.5.6~23に示します。引張り特性は環境温度により変化しますが、強化系グレードは、広い温度範囲で高い引張り強さを維持しています。特に強化材の含有率が高いA310MX04やA610MX03などのハイフィラーPPSは温度による変化が小さい特長があります。一方で、強化材の含有率が低いエラストマー改質タイプのA673Mや非強化PPSグレードは温度依存性が大きく、高温領域で引張り伸びが急激に大きくなります。これらの現象は、PPSやエラストマーの分子運動の影響による変化であり、いわゆる分子鎖の切断(熱劣化)による強度低下とは異なります。特に、非結晶部分の分子運動性が高くなるガラス転移温度(Tg)(PPSは約90℃)を境にして変化が大きくなります。(Fig.5.6)
【一般強化グレード】
1 A504X90 : 架橋型PPS+GF40%(標準)
Fig.5.6 引張り特性の温度依存性(A504X90)
Fig.5.7 応力-ひずみ曲線(A504X90)
2 A604 : リニア型PPS+GF40%(高靭性)
Fig.5.8 引張り特性の温度依存性(A604)
Fig.5.9 応力-ひずみ曲線(A604)
3 A310MX04 : 架橋型PPS+(GF+フィラー)65%(標準)
Fig.5.10 引張り特性の温度依存性(A310MX04)
Fig.5.11 応力-ひずみ曲線(A310MX04)
4 A610MX03 : リニア型PPS+(GF+フィラー)65%(高靭性)
Fig.5.12 引張り特性の温度依存性(A610MX03)
Fig.5.13 応力-ひずみ曲線(A610MX03)
【エラストマー改質グレード】
5 A673M : リニア型PPS+GF30%(高靭性)
Fig.5.14 引張り特性の温度依存性(A673M)
Fig.5.15 応力-ひずみ曲線(A673M)
6 A575W20 : 架橋型PPS+(GF+フィラー)50%(良流動性)
Fig.5.16 引張り特性の温度依存性(A575W20)
Fig.5.17 応力-ひずみ曲線(A575W20)
7 A495MA2:架橋型PPS+(GF+フィラー)50%(良エポキシ接着性)
Fig.5.18 引張り特性の温度依存性(A495MA2)
Fig.5.19 応力-ひずみ曲線(A495MA2)
【非強化グレード】
8 A900 : リニア型PPS(標準)
Fig.5.20 引張り特性の温度依存性(A900)
Fig.5.21 応力-ひずみ曲線(A900)
9 A670T05 : リニア型PPS+エラストマー改質(高靭性)
Fig.5.22 引張り特性の温度依存性(A670T05)
Fig.5.23 応力-ひずみ曲線(A670T05)