トレリナ™のDSC分析

示差走査熱量計(DSC: Differential Scanning Calorimeter)は、樹脂材料の分析には欠かすことのできない手法の一つであり、試料セルと参照セルの熱流速差を求めることにより有機材料の融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)や射出成形品の結晶化速度など様々な熱特性を調べることができます。

Ⅰ. 熱特性(融点、結晶化温度、ガラス転移温度)

Fig.6.1 DSCチャート(A900)Fig.6.1 DSCチャート(A900)
Fig.6.2 低温金型成形品のDSCチャート(A900)Fig.6.2 低温金型成形品のDSCチャート(A900)

トレリナ™射出成形品を20℃/minの速度で昇温していくと250℃付近から徐々に結晶融解による吸熱が表れ、278℃付近でピークを示します。(Fig.6.1) このピーク温度がPPS樹脂の融点であり、固体状態から溶融(融解)状態に遷移したことを示しています。また、溶融状態から一定速度で降温すると、結晶化に伴う発熱ピーク(降温結晶化温度)が現れます。この降温結晶化温度は固化速度の目安として用いられ、特に融点と降温結晶化温度の差(過冷却温度差)が小さい材料ほど固化が速いことを表します。
一方、PPS樹脂をガラス転移温度以下の金型温度(80℃以下)で成形すると、昇温過程で90~95℃近傍にガラス転移温度(Tg)を示す階段状のピーク(現れない場合もあります)の後、120~130℃近傍に結晶化による発熱ピーク(冷結晶化温度)が現れます。(Fig.2.2) この冷結晶化温度が明確に認められる場合は、成形品の結晶化が進行していないことを示しており、耐薬品性の低下や高温環境下での寸法変動などの原因になります。そのため、バリ抑制などの目的により低温金型で成形した場合は、製品の使用環境に応じたアニール(熱)処理を行い結晶状態を安定化させる配慮が必要です。(冷結晶化温度の発熱ピークは、アニール処理により消失します)

Ⅱ. 比熱

Fig.6.3 比熱の温度依存性(降温法)Fig.6.3 比熱の温度依存性(降温法)

比熱は1(kg)の物質の温度を1(K)上昇させるために必要な熱量(J)であり、比熱が大きい材料ほど温まりにくく冷めにくい特性であることを示しています。比熱は物質固有の特性であるためリニア型PPSと架橋型PPSで大きな違いはないものの、強化材固有の比熱の影響を受けます。また、比熱は温度に依存して大きくなる傾向を示します。(Fig.6.3)昇温法による比熱は熱伝導率測定(非定常法)、降温法による比熱は流動解析(CAE)など目的に応じて使い分けます。