熱伝導率、高熱伝導樹脂

温度差のある物体間の温度が一様になる伝熱現象は、熱が流れる流路の状態などの違いにより熱伝導、対流、ふく射に大別されます。熱伝導は、固体や静止した気体(または液体)中を熱が移動する現象であり、熱伝導率は成形品のような個体中を移動する熱の伝わりやすさを示した特性です。熱を運ぶキャリア(媒体)としては、自由電子、格子振動、分子振動などがあり、この内自由電子による伝熱効果が非常に高いことからアルミニウムや銅などの金属類の熱伝導率は高くなります。一方、トレリナ™をはじめとするプラスチック材料は自由電子を持たない絶縁材料であることから金属比、熱導率は低く断熱性に優れています。

Ⅰ. 熱伝導率の測定

固体の熱伝導率の測定には様々な方法がありますが、試料の温度が定常状態で単位時間に単位断面積を移動する熱量(熱流速:W/m2)から求める定常法と試料中を熱が拡散していく速度(熱拡散率:m2・S-1)から求める非定常法に分類することができます。近年では短時間で測定できるレーザーフラッシュ法やホットディスク法などの非定常法が主流となっています。非定常法により求めた熱拡散率に加えて試料密度、測定温度における比熱を用いて式6.1に従い熱伝導率を求めることができます。通常、熱伝導率の測定は、平板形状で測定することから定常法やレーザーフラッシュ法では厚み方向、ホットディスク法では厚み方向に加えて面方向の熱伝導率を求めることができます。また、成形品から放出される赤外線を分析し、温度分布図を表すことができるサーモグラフィ(Thermography)を用いることにより実際の成形品の伝熱を視覚的に確認する方法もあります。

Ⅱ. トレリナ™の熱伝導率について

定常法により求めたトレリナ™の厚み方向の熱伝導率をTable.6.3に示します。非強化PPSの熱伝導率と比較すると強化系PPSの熱伝導率は高くなります。PPSポリマーの熱伝導率と比較してガラス繊維や無機フィラーの強化材の熱伝導率の方が高いことから、添加している強化材の種類や含有率により熱伝導率が異なります。

Table.6.3 トレリナ™の熱伝導率(定常法、80℃)

項目 単位 ガラス繊維強化 ガラス+フィラー強化 エラストマー改質 非強化
A504X90 A604 A310MX04 A610MX03 A673M A575W20 A495MA2 A900 A670T05
熱伝導率
(厚み方向)
W/m・K 0.3 0.3 0.5 0.5 0.3 0.3 0.4 0.2 0.2

Ⅲ. 高熱伝導性PPSについて

LED照明をはじめとする電気・電子部品の長寿命化や自動車のモーターに使用される巻線のエネルギー損失低減などで行われる放熱設計に対しては高熱伝導性PPSが適しています。トレリナ™には、従来のPPSよりも飛躍的に熱伝導率を向上させた導電タイプのトレリナ™H501Bと絶縁性を維持したH718LBをラインアップしています。(Table.6.4)

Table.6.4 高熱伝導性PPS(23℃)

項目 測定方向 単位 ガラス繊維強化 ハイフィラー 高熱伝導性PPS 測定方法
絶縁タイプ
A504X90 A310MX04 H718LB
熱伝導率 面方向 W/m・K 0.4 0.7 1.0 ホットディスク法
体積固有抵抗 - Ω・m 2×1014 1×1014 5×1013 -

Fig.6.7 サーモグラフィ解析Fig.6.7 サーモグラフィ解析

サーモグラフィを用いた熱解析(Fig6.7)では、平板(80×80×3mmt)の中央部に熱源(3.4W)を設置し、反対面側から観察を行います。Fig.6.8は、一般的なガラス繊維強化PPS(A504×90)と高熱伝導性PPS(H501B、H718LB)を5分間加熱したときの温度分布図を比較しています。熱伝導率が低いガラス繊維強化PPSは熱源の周囲へ熱が拡散しにくくホットスポットが形成されているのに対して、高熱伝導性PPSは周囲に熱が拡散することによりホットスポットが緩和されていることが判ります。

Fig.6.8 高熱伝導性PPSの温度分布(サーモグラフィ)GF強化PPS H718LB(絶縁タイプ) H501B(導電タイプ)

Fig.6.8 高熱伝導性PPSの温度分布(サーモグラフィ)