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耐薬品性
トレリナ™は、酸、アルカリ、有機溶剤などの化学薬品に対して優れた耐薬品性を有しており、200℃以下で溶解させる有機溶剤はありません。しかし、濃塩酸、濃硫酸、硝酸、アミン類およびハロゲン化炭化水素が高温下で常時接触する場合には物性低下を引き起こす原因となります。
Ⅰ. トレリナ™の耐薬品性について
1 耐薬品性(全般)
ガラス繊維強化PPS(A504X90)、ハイフィラーPPS(A310MX04)およびエラストマー改質PPS(A575W20)の耐薬品性をTable.8.1~8.3に示します。トレリナ™は耐薬品性に優れていますが、特に、ガソリンやオイルなどの炭化水素類への耐性が高く自動車のエンジンやモーター周辺部品に適しています。一方、高温下での酸やアルカリに対する耐性は低い傾向にあり、特にハイフィラーPPSは温度条件に関わらず硝酸との長時間の接触には十分な配慮が必要です。
Table.8.1 ガラス繊維強化PPS(A504X90)の耐薬品性
薬 品 名 | 温度 (℃) |
時間 (hr) |
強度保持率 (%) |
|
---|---|---|---|---|
無機酸 | 10%硫酸 | 23 | 200 | 101 |
30%硫酸 | 100 | 200 | 78 | |
無機塩類 | 10%NaOH | 23 | 200 | 99 |
30%NaOH | 100 | 200 | 85 | |
炭化水素類 | ガソリン | 23 | 200 | 100 |
軽油 | 80 | 200 | 100 | |
ブレーキオイル | 80 | 200 | 102 | |
エンジンオイル | 80 | 200 | 103 | |
トルエン | 100 | 200 | 91 | |
四塩化エタン | 100 | 200 | 89 | |
鉱油(パラフィン) | 100 | 720 | 101 | |
鉱油(ナフテン) | 100 | 720 | 89 | |
アルキル置換ジフェニルエーテル | 100 | 720 | 98 | |
アルコール | ウォッシャ液 | 23 | 200 | 101 |
50%LLC | 80 | 200 | 101 |
Table.8.2 ハイフィラーPPS(A310MX04)の耐薬品性
薬 品 名 | 温度 (℃) |
時間 (hr) |
強度保持率 (%) |
重量変化率 (%) |
|
---|---|---|---|---|---|
無機酸 | バッテリー液 | 23 | 720 | 89 | +0.22 |
10%硝酸 | 23 | 720 | 82 | -1.4 | |
アルコール | メタノール | 23 | 720 | 97 | ≒0 |
50%LLC | 50 | 720 | 89 | +0.07 | |
炭化水素類 | ガソリン | 23 | 720 | 97 | ≒0 |
軽油 | 50 | 720 | 99 | +0.03 | |
エンジンオイル | 50 | 720 | 101 | ≒0 |
Table.8.3 エラストマー改質PPS(A575W20)の耐薬品性
薬 品 名 | 温度 (℃) |
強度保持率 (%) |
||
---|---|---|---|---|
500 (hr) | 1000 (hr) | |||
無機酸 | バッテリー液 | 130 | 55 | 40 |
アルコール | ウォッシャ液 | 99 | 98 | |
50%LLC | 85 | 80 | ||
炭化水素類 | 軽油 | 101 | 95 | |
エンジンオイル | 100 | 97 | ||
ATF | 100 | 100 | ||
ギアオイル | 100 | 99 | ||
ブレーキオイル | 100 | 98 |
2 耐酸性
ガラス繊維強化PPSをバッテリーなどに使用される希硫酸に浸漬すると、初期は強度の低下傾向を示すものの、徐々に平衡状態を示すことから劣化の影響は小さく吸液による可塑剤的な効果が働いていると考えられます。(Fig.8.1) 一方、エッチング処理などに使用される希硝酸に浸漬すると、初期は希硫酸と同様に吸液による強度低下が起こるものの、その後も経時的に強度が低下し続ける傾向を示すことから劣化が進行していると考えられます。そのため、特に硝酸が高温下で長時間接触する場合は十分な配慮が必要です。 (Fig.8.2)
Fig.8.1 10%硫酸処理(80℃処理)
Fig.8.2 10%硝酸処理(80℃処理)
3 耐LLC性
エチレングリコールを主成分とするLLC(Long Life Coolant)中にトレリナ™を浸漬すると、ガラス転移温度以上の使用環境では、温度依存して機械特性はやや低下傾向を示します。(Fig.8.3) PPSポリマー構造や強化材の含有率などによる違いはあるものの、一定時間後には平衡状態に達することから劣化ではなく、吸液による可塑剤的な効果の影響による低下と考えられます。特に、トレリナ™A504X90やA310MX04は150℃以上の環境下においては、初期の強度低下が大きいことから試料中へのLLCの拡散が速い傾向が認められます。(Fig.8.4) 一方、エラストマー改質グレードのトレリナ™A673Mは耐LLC性に優れたグレードであり、広い温度領域で高い強度保持が期待できることから、自動車などの液冷用部品に適しています。なお、本技術資料のLLC性評価は日本国内の寒冷地を想定した50vol%で評価を行っています。
Fig.8.3 50%LLC性 (130℃処理)
Fig.8.4 50%LLC性 (150℃処理)
注釈) 50%LLC : トヨタ純正スーパーLLC:水 = 1:1
4 耐油性
トレリナ™ はガラス転移温度以上でATF(Automatic Transmission Fluid)中に浸漬しても、大きな重量変化は示さず強度低下も小さいことから耐油性に優れています。特に、架橋型ポリマータイプ(A504X90)と比較して、リニア型ポリマータイプ(A604)は機械特性の保持率が高く、より耐油性に優れています。(Fig.8.5)
また、ATF以外の市販されている一般的なオイル類(ATF、CVTF、エンジンオイル等)に対しても、高温環境下で長時間接触しても強度低下は小さく高い耐性を有しています。(Fig.8.6)
Fig.8.5 耐ATF性(150℃処理、ISOタイプA1形)
Fig.8.6 A504X90の耐油性(150℃処理)
5 耐燃料性
トレリナ™は耐燃料性に優れており、強化系PPSでは機械特性の低下はほとんど認められません。(Fig.8.7) 一方で、PPSは芳香環が繋がった分子構造を有することから、ガソリンや軽油などに含まれる芳香族系の成分と親和性が高く、オイル類に比べると重量変化は若干大きい傾向にあります。特に、代替ガソリン(Fuel C等)に含まれるトルエンとの親和性が高く、重量変化に強く影響します。また、こうした重量変化は試験燃料種や試験温度以外にも、ポリマー構造、強化材の含有率、エラストマー改質有無によっても異なります。(Fig.8.8) 燃料膨潤による寸法変動が求められる用途に対しては、架橋型ポリマータイプを用いたハイフィラーグレードA310MX04などが適しています。
Fig.8.7 耐燃料性 (A504X90、ASTM1号形)
Fig.8.8 耐燃料性 (80℃処理、Fuel C/メタノール15%)
注釈)Fuel C : イソオクタン:トルエン = 50:50 (vol%)
6 各種ガス透過性
Fig.8.9 差圧法(ガスクロマトグラフ法)
ガス透過度(GTR : Gas Transmission Rate)は、水素などの気体分子(または蒸気)が成形品中を拡散して透過していく度合いを示す指標であり、ガス透過度が小さい材料はガスバリア性が高く、容器などに用いた場合の気密性に優れることを示します。ガス透過度の代表的な試験方法には、差圧法(JIS K 7126-1)、同圧法(JIS K 7126-2)およびカップ法(JIS Z 0208)があります。Fig.8.9に差圧法(ガスクロマトグラフ検出)の模式図を示します。差圧法は、低圧チャンバと高圧チャンバから構成される透過セルのチャンバ間に試験サンプルをセットし、高圧チャンバ側から試験ガスを導入します。加圧状態にある試験ガスは、減圧側に向かって材料中を徐々に拡散し透過していきます。GTR(単位:g/m2・day)は、減圧側に透過したガス量を圧力センサーやガスクロマトグラフで定量分析を行って求め、更に試験サンプルの透過面積および試験時間より算出します。また、試験サンプルの厚みで除したガス透過係数として表す場合もあります。
トレリナ™射出成形品(1mmt)の平板を用いて差圧法にて求めたトレリナ™のガス透過度(常温)をTable.8.4に示します。 トレリナ™は水素、ヘリウム、炭酸ガス及びメタンガスなど各種ガスに対するバリア性に優れています。
Table.8.4 トレリナ™の各種ガス透過度 (23℃)
ガス種 | 単位 | 非強化 | ガラス繊維強化 | GF+フィラー強化 | |
---|---|---|---|---|---|
A900 | A670T05 | A604 | A310MX04 | ||
H2 | ×10-10cm3/cm2・sec・cmHg | 1.5 | 1.6 | 0.6 | 0.5 |
He | 1.3 | 1.5 | - | - | |
CO2 | 1.9 | 2.2 | - | - | |
CH4 | 1.0> (検出下限以下) |
1.0> (検出下限以下) |
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